羊と鋼の森

こんな小説があるんだ。
純度の高い、混じりっけのない鉱石みたいな物語。
上質な世界の余韻に浸っているところです。

 

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)

 

 
羊と鋼のというタイトルを見たときは、スチームパンクな物語?と思ったのですが、山奥で純粋に育った青年が、ピアノの調律に魅せられ、極めていくお話でした。

ピアノは88の鍵盤をもつ巨大な楽器で、その調律は88鍵1つ1つ丁寧に合わせていく、大変に根気のいる作業です。私も小さい頃その作業が面白くてずっとまとわりついて見ていた記憶があります。何時間も(子供の主観です)かけて、最後にぽろぽろっと弾いた時の鮮明さに驚いたものです。

手入れのいい、何年も弾いていない、大変に弾きこまれた、ボロボロの、甘えるような、輝くような。ご家庭や学校、コンサートホール、さまざまな環境のピアノを調律するという事は、さまざまな人生と向き合う事でもあって。そのハーモニーが主人公の純粋さで際立つ、というか鏡のように見せてくれます。

小さい頃は毎日のように弾いていたのに、だんだん小さな音で、サイレンサーを通してしか弾かなくなり、そのうち全く弾かなくなった、私のピアノには何が映し出されていたんだろう。。。

主人公はひたすら調律に向き合います。毎日毎日、練習がてら職場のピアノに。先輩の調律はメモを取りながら食い入るように。時間さえあればピアノを聞き、今日の仕事はどうだったかなと反芻して。常にピアノの事を考え続けている。混じりっけなしです。

それが主人公にとって自然で、無理なく、生きるという事で。こんな仕事に出会えたら素敵だろうなあ。。。仕事に悩んでいた所だったので、余計にひきこまれたのかもしれません。